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神戸地方裁判所 昭和53年(ワ)188号 判決 1980年10月30日

原告

向智子

ほか一名

被告

山内喜治

ほか一名

主文

被告らは各自原告向智子に対し、金三九四万三、八九〇円およびうち金三五九万三、八九〇円に対する昭和五〇年一一月一七日から、原告向眞智子に対し、金五九七万一、六四八円およびうち金五四三万一、六四八円に対する昭和五〇年一一月一七日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告向智子と被告らとの間との間では三分し、その一を同原告の、その余は被告らの負担とし、原告向眞智子と被告らとの間では二分し、その一を同原告の、その余は被告らの負担とする。

この判決は主文第一項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

1  被告らは各自原告向智子に対し、金九八五万一、一四一円およびうち金九二五万一、一四一円に対する昭和五〇年一一月一七日から、原告吉井眞智子に対し、金一、一六二万七、七五三円およびうち金一、一〇二万七、七五三円に対する昭和五〇年一一月一七日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

訴外亡向安幸(以下亡安幸という)は左記交通事故により即死した。

(一) 日時 昭和五〇年一一月一六日午前〇時一分ごろ

(二) 場所 神戸市灘区友田町四丁目四番二二号先路上

(三) 加害車 普通乗用自動車(神戸五六つ三三六号)

保有者 被告 山内喜治(以下被告喜治という)

運転者 被告 山内亘(以下被告亘という)

(四) 態様 被告亘が加害車を運転して時速九〇キロメートル以上で西進中、交差点の横断歩道上を横断中の亡安幸に加害車を衝突させ、同人に右骨盤轢断創等の傷害を与えて即死させた。

2  亡安幸と原告らの身分関係

原告向智子(以下原告智子という)は亡安幸の妻であり、原告吉井眞智子(以下原告眞智子という)は亡安幸の子である。

3  責任原因

(一) 被告喜治は、本件事故当時、加害車を保有し、これを自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条所定の責任がある。

(二) 被告亘は、加害車を運転して、前方注視を怠り、かつ、制限速度時速五〇キロメートルを四〇キロメートル以上も超過した時速九〇キロメートル以上の猛スピードで走行した過失により本件事故を発生せしめたものであるから民法七〇九条所定の責任がある。

4  損害

(一) 葬式関係費用

原告智子分 金七一万八、六二八円

(二) 亡安幸の逸失利益

A 警察共済組合年金を除く分 金四、〇九九万一、四八七円

(1) 死亡時 満四八歳

(2) 就労可能年数 一九年

(3) 年収額

イ 株式会社ヤシロにおける年間所得 金三九八万四、七二〇円

ロ クラブ多摩における年間所得 金四八万円

(1) 計 金四四六万四、七二〇円

(4) 生活費控除 三〇パーセント

(5) 新ホフマン係数(一九年) 一三・一一六

算式 4,464,720円×(1-0.3)×13,116=40,991,487円

右逸失利益は、原告らが相続により、三分の一および三分の二の割合で次のとおり承継した。

原告智子分 金一、三六六万三、八二九円

原告眞智子分 金二、七三二万七、六五八円

B 警察共済組合年金の分

右年金額は金九七万四、四〇〇円であるから、これを前記Aと同様の方法により計算すると金八九四万六、一六一円となる。

算式 974,400円×(1-0.3)×13.116=8,946,161円

但し、昭和五七年四月まで約六年五か月間は右金九七万四、四〇〇円を全額支給せず、一部支給であるから、計算を簡略して、一九年のうち、はじめ五年間は支給額をゼロとし、残り一四年間は右金九七万四、四〇〇円の支給を受けるものとすれば、新ホフマン係数(五年)は四・三六四であるから金二九七万六、五九七円(算式 974,400円×(1-0.3)×4.364=2,976,597円)となり、前記金八九四万六、一六一円から右金二九七万六、五九七円を控除すれば金五九六万九、五六四円となる。

右金五九六万九、五六四円は、原告眞智子が相続により三分の二の割合で次のとおり承継した。

原告眞智子分 金三九七万九、七〇九円

なお、原告智子は、亡安幸の死亡により、遺族年金が支給されるので、この分の逸失利益については請求しない。

(三) 慰藉料

原告智子分 金九〇〇万円

原告眞智子分 金三〇〇万円

(四) 弁護士費用

原告智子分 金一〇〇万円

原告眞智子分 金一〇〇万円

(五) 過失相殺 四〇パーセント

本件事故は亡安幸が信号が青でないときに横断歩道を渡つた過失も加わつて発生したものであるが、その過失を斟酌しても、その過失割合は四〇パーセントを超えることはない。

(六) 結局、原告らの損害額の合計は

原告智子分 金二、四三八万二、四五七円

原告眞智子分 金三、五三〇万七、三六七円

となるが、亡安幸の過失割合四〇パーセントを控除すると次のとおりとなる。

原告智子分 金一、四六二万九、四七四円

原告眞智子分 金二、一一八万四、四二〇円

5  損害の填補

原告らが自賠責保険から給付を受けた金一、四三三万五、〇〇〇円は、三分の一および三分の二の割合で次のとおり填補した。

原告智子分 金四七七万八、三三三円

原告眞智子分 金九五五万六、六六七円

6  結論

よつて、原告智子は被告らに対し、金九八五万一、一四一円およびうち金九二五万一、一四一円に対する昭和五〇年一一月一七日から、原告眞智子は被告らに対し、金一、一六二万七、七五三円およびうち金一、一〇二万七、七五三円に対する昭和五〇年一一月一七日から各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うべきことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は認める。

3  同3は認める。

4  同4は争う。

5  同5は認める。

三  被告らの主張

1  過失相殺

亡安幸は、本件事故発生の前日の午後五時三〇分ころより本件事故直前まで飲酒して相当酩酊していたところから、幹線道路を赤信号を無視して、加害車の直前(約二〇メートル)を歩道から飛び出して横断した結果、本件事故に遭遇したものであつて、一方、被告亘は、加害車を運転して、本件交差点の信号が青であることを確認して進行し、事前に警笛も吹鳴しているのであるから、亡安幸の過失は重大であつて、これを斟酌すれば、その過失割合は八〇パーセントと認めるのが相当である。

2  弁済

被告らは原告らに対し、葬儀関係費として金六七万九、〇〇〇円を支払つた。

四  被告らの主張に対する認否

1  被告らの主張は争う。

2  同2は知らない。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1、2、3は当事者間に争いがない。

二  損害について

(一)  葬儀関係費

原告向智子本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認める甲第九号証の一ないし四、第一〇号証ないし第一三号証によれば、亡安幸の葬式関係費用として原告智子が負担支出した金額が金七一万八、六二八円であること、被告山内亘本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認める乙第一七号証ないし第二一号証によれば、亡安幸の葬式関係費用として被告らが負担支出した金額が金六七万九、〇〇〇円であることがそれぞれ認められるが、右合計金一三九万七、六二八円のうち金四五万円(墓碑費用を含む)をもつて相当因果関係の範囲内にある原告智子の被つた損害額と認める。

(二)  亡安幸の逸失利益

1  証人向利男の証言により真正に成立したものと認める甲第五号証ないし第八号証、証人向利男の証言および原告向智子本人尋問の結果によれば、亡安幸は昭和二年四月一六日生れ(本件事故当時四八歳)であつて、本件事故当時、株式会社ヤシロに営業全般を担当する専務取締役として勤務し、その年間の勤労所得が金三九八万四、七二〇円であつたこと、また、クラブ多摩における経理事務を担当し、その年間の勤労所得が金四八万円であつたことが認められるから、その年間の勤労所得は合計金四四六万四、七二〇円であるところ、亡安幸は当時四八歳の世帯主であるので、その就労可能期間は六七歳まで一九年間、生活費控除は三〇パーセントをもつて相当とするから、これにより逸失利益を算定すると金四、〇九九万一、四八七円となる(4,464,720円×(1-0.3)×13.116=40,991,487円)。右逸失利益は、原告らが相続により、原告智子が三分の一に相当する金一、三六六万三、八二九円を、原告眞智子が三分の二に相当する金二、七三二万七、六五八円を承継した。

2  また、成立に争いのない甲第一五号証、乙第二二号証、原告向智子本人尋問の結果によれば、亡安幸は、本件事故当時、警察共済組合から退職年金の受給資格を有し、昭和五〇年八月から同年一二月までは年金額金九七万〇、五〇〇円から停止額金六四万〇、五〇五円を控除した金三二万九、九九五円、昭和五一年一月から昭和五二年四月までは年金額金九七万四、四〇〇円から停止額金六四万三、〇七五円を控除した金三三万一、三二五円、昭和五二年五月から昭和五七年四月までは年金額金九七万四、四〇〇円から停止額金五一万〇、五六二円を控除した金四六万三、八三八円、昭和五七年五月以降は年金額金九七万四、四〇〇円全額を受給し得たところ、亡安幸が本件事故により死亡したため、遺族年金として、同人の配偶者である原告智子は昭和五〇年一二月金四九万五、〇〇〇円、昭和五一年一月金四九万七、〇〇〇円、同年七月金五五万六、三〇〇円、同年八月金五六万三、六〇〇円、昭和五二年四月金五九万四、二〇〇円、同年六月金六〇万九、一〇〇円、昭和五三年四月金六三万六、一〇〇円、同年六月金六五万〇、九〇〇円、昭和五四年四月金六六万三、一〇〇円、同年六月金六七万四、〇〇〇円を受給していることが認められるから、亡安幸の余命年限(二七・三三年)までの得べかりし退職年金を喪失利益として認め、原告智子の受給する遺族年金は、その相続した亡安幸の右喪失利益の限度で控除するのが相当である。ところで原告らは、亡安幸の余命時限のうち一九年間について、はじめの五年間の支給額をゼロとし、残り一四年間について年金支給額金九七万四、四〇〇円の受給を受けるものとして、生活費三〇パーセントを控除して、その喪失利益の現価をホフマン式により金五九六万九、五六四円と算出し、原告智子については遺族年金の受給を受けているところから請求せず、原告眞智子について、相続により三分の二に相当する金三九七万九、七〇九円を承継したとするのであるが、控めな算出方法であつて、是認できる。

(三)  慰藉料

証人向利男の証言、原告向智子本人尋問の結果によれば、亡安幸は妻である原告智子と長女である原告眞智子の三人家族であつて、原告眞智子は既に他に嫁していること、亡安幸は永らく警察官として勤務した後、兄の向利男が経営する株式会社ヤシロに専務取締役として勤務し、家族と不自由のない生活を送つていたが、本件事故により死亡したため、原告智子は、心痛のあまり健康を害し、遺族年金と自賠責保険金によつて生活を支えていることが認められるほか、亡安幸、原告らの年齢、社会的地位、経済状態、身分関係、その他諸般の事情を斟酌すると、原告智子、同眞智子の慰藉料額は、亡安幸の慰藉料額の相続分を含めて、原告智子が金六〇〇万円、原告眞智子が金二〇〇万円と認めるのが相当である。

(四)  過失相殺

成立に争いのない甲第二、三号証、乙第一号証ないし第六号証、第七号証(ただし、末尾添付図面を除く)、第八号証ないし第一五号証、被告山内亘本人尋問の結果によれば、本件事故現場は、幅員四・七メートルの中央分離席(ただし、交差点付近では幅員一メートル)によつて、それぞれ幅員七・六五メートルの西行車道と東行車道とに区分され、西行車道の南側と東行車道の北側に、それぞれ幅員四メートルの歩道がついている東西に通ずる国道二号線と、南側の幅員が一二メートル、北側の幅員が九・二メートルの南北に通ずる道路とが、ほぼ直角に交差する信号機によつて交通整理の行なわれている交差点であつて、アスフアルトで舗装され、路面は平坦で、夜間でも水銀灯が点灯されて見とおしは良好であり、横断歩道の安全施設があること、被告亘は加害車を運転して、東西に通ずる国道二号線の西行車道を時速約九〇キロメートル(時速制限五〇キロメートル)で西進中、本件事故現場である交差点にさしかかつたのであるが、右交差点の信号が青であることを確認し、さらに前方の交差点の信号に気をとられて進行したため、同乗者が右前方約七四メートルの右交差点西側の横断歩道よりの中央分離帯上に佇立している亡安幸を認めてパトロールホーンを鳴らしたのに、右中央分離帯から南に横断しようとしている亡安幸を約三三メートルに接近して、はじめて気づき、警音器を吹鳴し、急制動の措置をとつたが間に合わず、右西行車道の右交差点西側横断歩道の西側付近で加害車の前部を亡安幸に激突させたこと、亡安幸は本件事故前日の午後五時三〇分ごろから相当量の飲酒をした後、本件事故現場である交差点を北から南に横断するため、右交差点西側の横断歩道よりの中央分離帯上に佇立していたのであるが、南北の信号が赤であつて、折柄、西行車道を東から西に加害車が進行していたのにかかわらず、右中央分離帯から南に右西行車道を横断しようとして飛び出したため、加害車の前部に激突し、右骨盤轢断創による出血のため即死したことが認められ、右認定に一部牴触する被告山内亘本人尋問の結果は採用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、本件事故は、被告亘が前方注視義務を怠り、かつ、時速制限五〇キロメートルを四〇キロメートルも超過する時速約九〇キロメートルで進行した過失によつて惹起したことが明らかであるが、亡安幸も酒に酔つて信号を無視し、しかも安全を確認しないで幹線道路を横断しようとして飛び出した点に不注意があつたとしなければならないから、過失相殺の法理を適用して、被害者側の損害額の五五パーセントを減殺するのが相当である。

してみると、原告智子の請求し得る損害額は、(一)の葬儀関係費金四五万円、(二)1の亡安幸の逸失利益の相続分金一、三六六万三、八二九円、(三)の慰藉料金六〇〇万円、合計金二、〇一一万三、八二九円の四五パーセントに相当する金九〇五万一、二二三円であり、原告眞智子の請求し得る損害額は(二)1の亡安幸の逸失利益の相続分金二、七三二万七、六五八円と(二)2のそれの金三九七万九、七〇九円、(三)の慰藉料金二〇〇万円、合計金三、三三〇万七、三六七円の四五パーセントに相当する金一、四九八万八、三一五円である。

(五)  損害の填補

原告らが自賠責保険から給付を受けた金一、四三三万五、〇〇〇円について、うち金四七七万八、三三三円が原告智子の、うち金九五五万六、六六七円が原告眞智子の各損害額に填補されたことは当事者間に争いがなく、また、亡安幸の葬式関係費用として被告らが負担支出した金額が金六七万九、〇〇〇円であることは前記(一)において認定したとおりであつて、右金六七万七、〇〇〇円を原告智子の請求し得べき損害額と損益相殺するのが相当であるから、結局、原告智子の請求し得べき損害額は金三五九万三、八九〇円となり、原告眞智子の請求し得べき損害額は金五四三万一、六四八円となる。

(六)  弁護士費用

原告らが弁護士藤原忠に本件訴訟の提起と追行を委任し、弁護士会所定の報酬規程に基づいて報酬を支払うことを約したことは弁論の全趣旨によつて明らかであるところ、本件訴訟の審理の経過、事案の難易度、認容額、その他諸般の事情を検討すると、相当因果関係の範囲内にある損害額としての弁護士費用は、原告智子のそれが金三五万円、原告眞智子のそれが金五四万円をもつて相当とする。

三  むすび

よつて、原告らの本訴各請求のうち、被告らに対し、原告智子が金三九四万三、八九〇円およびうち金三五九万三、八九〇円に対する昭和五〇年一一月一七日(本件事故発生日の翌日)から、原告眞智子が金五九七万一、六四八円およびうち金五四三万一、六四八円に対する前同日から各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うべきことを求める部分は正当であるから認容すべきであるが、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 阪井昱朗)

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